生っ粋のトラッド・ファン、或いは青春時代をアイビー・ルックで過ごしてきた人達は先刻ご存じのことだろうが、ボタンダウンについておさらいしてみたい。一般にはボタンダウン・カラーのシャツが初めて世の中に登場したのは、20世 紀のはじめといわれている。
20世紀に入ってすぐの頃、アメリカはニューヨークの紳士服の老舗「ブルックス・ブラザース」の創立者で当時既に引退していたジョン・ブルックスが、英国ポロ競技を観にいった時、選手達がユニフォームの衿が風にあおられてバタバタするのを押さえるために、衿の先にボタンをつけていたのを見て思い立ち、4人の息子達が受け継いでいたブルックス・ブラザースのシャツにその衿を取り入れて売り出したと伝えられている。というわけで、ボタンダウン・シャツ(というの本当は正しくない。ボタンダウン・カラーのシャツというべきだろう)はブルックス・ブラザースが発祥といわれているが、最初からあの独特のロールをもった衿だったのかどうかは定かではない。フル・ロールと呼ばれるゆったりとしたあのカーブはボタンの位置できまる。熟練した職人にしかできないといわれるこのボタン位置と、前立て最上部のボタンのところで左右の衿の間に多少のゆとりがあることがキーポイントで、ゆる目にしめたネクタイに大き目の結び目が丁度よく収まり、あの独特の美しい衿のカーブが生まれるのである。
アイビーの大御所、あのくろすとしゆき先生によれば、日本にボタンダウンの衿が登場したのは1950年頃のことで、ショート・ポイントの極く普通の衿にボタンがついただけの妙なものだったらしい。前立てもなくミシンのステッチも入っていない不思議なデザインだったという。
一方、元祖アメリカではこの頃にはもうボタンダウン・カラーはすっかり定着しており、50年代後半の男性ファッション誌には編集ページ、広告ページを問わず、ボタンダウン・カラーのシャツが度々登場している。
一例として、1958年9月号のGQマガジンからボタンダウンのシャツをいくつか拾ってみよう。
イラストは紳士アパレルの広告に出ていたもの。写真の方は編集ページで紹介されていたもので、綿ニットのプルオーバーに小紋プリントという当時の最先端をいくシャツ。後にVANが大ヒットさせたアイテムだ。